アパートの一室で小学生7人で一つのブラウン管を見ていた。ゲームはスパルタンX。一人1回ずつ、自分の番をじっと待ちながら友達の操るトーマスを眺めていた。あそこでナイフ投げてくるんだ。棒持ってるあいつは下段キック連打だね。
テレレレレレテーンテーン
テレレレレレテーンテーン
テレレレレレテーンテーン
デーデン! ドコドコドコドコ。。。。
何百回聞いただろうか。スパルタンXのオープニング。今でも頭の中でスタートボタンを押したら流れてくる。そのくらい夢中になったゲームだ。主人公トーマスはさらわれたシルビアを救うためミスターXのいるこの建物に侵入する。そんなゲームだ。
みんな1階は普通にクリアできる。2階も蛇にかまれながらもなんとかボスまでたどり着く。2階のボスはブーメランを投げてくる。よくよく考えたらあんな遅いブーメラン痛いだけで死ぬことはないと思うが当たったらそれこそ痛かった。
「あれ?」
ノリ君が言った。
「どうした?」
「ブーメラン当たんない」
そう2階のボスはくっついているとブーメランに当たらないのだ。
「すっげー!」
この技を開発してから、みんなブーメランは楽々クリアできるようになり、3階にいけるようになっていた。3階の敵は小さいトムトムだった。つかみ男やナイフ投げに紛れて小さいトムトムが来る。厄介なことにジャンプして攻撃してくるやつもいる。みんなこの小さい敵にイライラしはじめた。俺は友達のプレイを見ながらタイミングを計っていた。
やがて俺の番になる。つかみ男を蹴り飛ばしナイフ投げを牽制しながらトムトムの攻撃をジャンプでかわす。アクションゲームは苦手だがパターンを覚えておいた。テンションが上がっていたこともあって自分でも驚くほどのスーパープレイをしているような気がした。そして俺がみんなの中で最初にボスにたどり着いた。
「でけー」
「なんだこいつ!」
みんなが言う。3階のボスは大男「怪力男」だった。とりあえず下段キック、ボスが出てきたら下段キック。バカの一つ覚えだったが、怪力男の弱点だったようだ。みるみる怪力男の体力が減っていき、ボーン!という音と共に吹っ飛んだ。勝った。
「おー!」
俺はコントローラーを一度置き、ズボンで手を拭き手首をぶらぶらさせてカッコをつけた。みんなの声が心地よかった。
4階は毒蛾が飛んでくる。まったくパターンがわからずすぐに死んでしまった。それからみんな必死に4階まで上がった。4階の蛾の飛んでくるパターンをみんなで覚える。そして…。
ボスだ!小さい…。なんだこいつ。口から火を出した…妖術使いだ。あまりの攻撃にみんな蛾を避けてボスまでたどり着くのに一度も攻撃することができなかった。その度に「ワッハッハッハッハ!」と気持ちの悪い声がする。ファミコンの音声合成だ。妖術使いだけ声が違うのがさらに不気味だった。妖術使いはみんなの中で「ババア」というあだ名になった。本当は爺さんだったようだが…。そうなるとみんな誰が一番最初に「ババア」を倒すかという感じになってきた。
ニシ君がボスまでたどり着いた。
「ババア死ね!」
ニシ君がババアにキックをした。ポロン…。首が取れた。勝ったのか?
体力ゲージが全く減っていない。次の瞬間後ろに現れ、火を吹かれニシ君のトーマスは死んだ。
「ワッハッハッハッハ!」
「えーーーーーーー」
思わずみんなで声を揃えて言った。ババアは頭への攻撃は無効なのだった。みんな疲れ果てゼビウスを始めていた。