ふぁみこんせだいのいろいろ

のうみそのなかみ

昭和

手こぎボートに何人乗るの?

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ちょうど俺が小学生の頃当時の子供たちがみんな欲しがったもの。それがゲームウォッチである。後にファミコンをはじめとする様々なゲーム機を出すことになるあの任天堂の製品である。どうでもいい話だが任天堂は花札やトランプなどのカードゲームを作る会社だった。どれも大体運を天に任せるようなゲームであることから、任天堂と名付けられたらしい。
7月の終わりの誕生日、俺はおもちゃ屋にいた。どれが欲しい?と言われ悩む。当時は今ほど情報の無い時代、おもちゃ屋で実際にゲームを見て買うゲームを決めるのが当たり前だった。マサがオクトパスを持ってるし、ケイがファイアを持ってる。じゃあ・・・。と俺が選んだのはパラシュートだった。

パラシュートパラシュート

ヘリコプターからパラシュートで降りてくる人たちをボートで救うだけという今考えたら恐ろしいほどの糞ゲーだが、当時はそれが最高級の遊びだったのだ。赤いゴムのボタンを押してボートを右へ左へコントロールする。ボートは手こぎボートだ。ともすればパターンが見えている様な代わり映えのない液晶画面でも俺の想像力をプラスしていろんな心を持った人が降りてくる。サメに食われたくない!思いきり飛べば木に引っかかる事はないぞ!やばい!大量に降ってきた全員助けないと!そんな台詞が液晶画面から漏れて来た。
サメに食われるとはボートで救えなかった人が海に落下し、人食い鮫に襲われて“1機減る”こと要は失敗である。木に引っかかるとは、GAME Bというちょっと難しいモードで手前側の椰子の木にパラシュートが引っかかりしばらく動けなくなる人がいる(タイミングをずらされる)。1人救えたら1点、3回ミスをするまで延々続く。

疑問が沸いた。果たして何人まで助けられるんだろう。数字の部分はゲームをしていない時は時計になったから都合4桁の数字を表示することができた。9999人?まで行ったらどうなるんだろう?子供ながらあの手こぎボートに何人乗るのか?という疑問が沸いた。700点くらいになるとパラシュートの落下スピードも上がり、こちらの集中力も切れてくる。だからいつも大体7~800点で終わってしまう。

元旦の朝の事だった。トイレでパラシュートをしていた。800点を超えた。しかもここまでノーミス。今日はなんだかまだまだ行けるような気がしてテンションが上がった。初詣や挨拶回りに行くからと親が呼ぶ。ゲームウォッチにはポーズ機能など無かったから止めるならゲームオーバーにならなくてはいけない。
「ちょっと待って!」
それしか言えなかった。だんだん声が荒くなる。
「早くしなさい!」
そう。俺はトイレで遊んでいるのだ。親からしたらとっとと初詣に行きたいのに子供のウンコ待ちである。怒るのも無理はない。900点を超えた。1000点。せめて1000点が見たい。ゲームウォッチはゲームを選択するときにハイスコアが表示される仕様だったので、何としても4桁をみんなに見せたい。必死だった。920点急かされたためか立て続けに2機のパラシュートが海に落下。ミスはあと1回。
「ビーーーッ!ビッ!ビッ!ビーーーー!」
ミスした時のブザーを聞きながら団地のトイレの小さな窓から外を見ると晴れた良い天気だった。早く行かないと怒られる。でも・・・こっちだって。970点を超えた。集中力は無くなるどころかMAXである。995点。3機のパラシュートが落下してくる。中、右、左だ。
「ピピピ、ピピピ、ピピピ」「ビビッ!ビッ!」3機を救い998点
さらに3機のパラシュートが降ってくる。右、中、左だ。ボートを右に寄せ、右のパラシュートを救い即座に中へ、さらに左へ。ついに1000人のパラシュートを救った。画面は・・・。

今の子が見ても疑問に思うだけだと思うが・・・。

0。
そうゲームウォッチは999がカウンターストップだったのだ。0に戻ったゲームは突然緩くなった。いわゆる1周回った状態である。落下速度は急激に落ち、再び1から助けなさいと言われると俺のやる気も急激に落ちてしまった。手こぎボートには999人が限界だった。俺は夏から誰にも貸さずに大事にしていたパラシュートを冬休みの間にマサのオクトパスと交換した。もちろん貸し借りだが・・・。

-昭和

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